小出 稚子と山根 明季子、その後の世代へ
New Sensibilities は、2000年代後半以降の日本の現代音楽シーンに現れた、新しい感性の広がりを紹介するコンサートです。
小出稚子と山根明季子は、それぞれ異なる方法で従来の現代音楽の枠組みを拡張し、独自の表現を切り開いてきました。
小出は、繊細な音色感覚と豊かなオーケストレーションを通して、音の内的関係性や質感を丁寧に描き出してきました。作品ごとに異なる題材や世界観に応じて作曲語法を選びながらも、斬新なオーケストレーションと色彩豊かな音響のテクスチュアによって、現実と想像のあいだに広がる感覚の風景を鮮やかに立ち上げています。
一方、山根は「音を視る、音で造形をデザインする」というコンセプトのもと、音楽と視覚芸術、パフォーマンス、ポップカルチャーとの関係を探求してきました。その作品には、「かわいい」や「インスタント」、アミューズメントパークやゲームセンターといった現代社会の日常空間や感覚がしばしば登場します。それらは単なる引用ではなく、私たちを取り巻く価値観や欲望、環境そのものを音楽として捉え直す試みでもあります。
一見すると対照的な両者の作品ですが、その根底には既存の価値観やジャンルの境界を軽やかに横断し、音楽をより自由で開かれた感性の場として捉えようとする共通の姿勢があります。彼女たちの作品は、音楽を構造や概念として理解される対象から、身体を通して経験される出来事へと開いてきました。そこでは音は聴覚だけにとどまらず、視覚や触覚、空間感覚、記憶や想像力とも結びつきながら、多層的な体験として立ち現れます。
小出と山根以降の世代において重要なのは、新しい技法やスタイルではなく、新しい感じ方の提案です。音楽はもはや音による構造物としてだけではなく、身体や空間のなかで立体的に経験される感覚の場となっています。本公演では、両作曲家の作品に加え、久保哲朗、冷水乃栄流、向井航による新作委嘱作品を上演します。世代を超えて受け継がれ、更新され続ける感性の連なりに注目しながら、2000年代後半に芽生えた「もうひとつの現代音楽」の可能性を探ります。
@JUMPEITANAKA
1982年生まれ、千葉県出身。東京音楽大学、同大学院修了、ローム ミュージック ファンデーション奨学金、文化庁新進芸術家海外研修制度、デンハーグ王立音楽院より助成を受け、アムステルダム音楽院およびデン・ハーグ王立音楽院を修了、インドネシア政府奨学金および野村財団より助成を受け、インドネシア国立芸術大学スラカルタ校でジャワ・ガムランの演奏と理論を学ぶ。第17回芥川作曲賞、第76回日本音楽コンクール作曲部門第2位と聴衆賞、第18回出光音楽賞、アリオン賞等を受賞。2016年トンヨン国際音楽祭で初演された《布袋》で、アジア作曲家ショーケース・ゲーテ賞ならびに聴衆賞を受賞。2020年、ニューヨークで開催されたMusic From Japan Festivalでは招待作曲家として特集され、室内楽作品《毘沙門》の世界初演を含む複数の作品が取り上げられた。近年は、音楽家と振付家がタッグを組み、動物をテーマにした子どものためのパフォーミングアーツを創作・上演する「どうぶつおんがくたい」のメンバーとしても活動している。近作に、オーケストラのための《南の雨に耽る》《博多ラプソディ》、4人の打楽器奏者のための《Jamtic Jamtac》などがある。2022年にはBBC Radio 3の委嘱による新作《揺籠と糸引き雨》がBBC交響楽団により世界初演され、2023-25年第4代名古屋フィルハーモニー交響楽団コンポーザーインレジデンスを務めた。
@Ayano Sudo
1982年生まれ、大阪府出身。五線による管弦楽曲からテキストスコア作品まで横断的に制作するほか、企画監修、空間制作、パフォーマンスを通して、音を介した探究と対話の場を作り続けている。京都市立芸術大学作曲専攻、同大学院修了。ブレーメン芸術大学に派遣留学。第20回芥川作曲賞、第17回芥川作曲賞ファイナリスト、第75回日本音楽コンクール作曲部門第1位、明治安田賞、増沢賞等を受賞。作曲作品に、琵琶とオーケストラのための《ハラキリ乙女》(サントリー芸術財団委嘱、ワルシャワの秋再演)、《アーケード》(サントリーホール委嘱、ムジカノヴァヘルシンキ再演)など各地で上演されている他、任意の編成のための《状態》はFrauen im Licht(デュッセルドルフ)、Overlap展(+1artギャラリー、大阪)ほか音楽家や美術作家らに様々なかたちで再創造されている。監修公演に『東京現音計画 #10』、『塩見允枝子 performances & visual works 2021 神戸』、神奈川県民ホール『ジョン・ケージ x 山根明季子』など。両国アートフェスティバル2024『二次創作』では芸術監督を務めた。2026年にはエリック・サティの家具の音楽をはじめとする作品群をレトロゲームBGMの様式で実装したアルバム『furniture music in pixel field』を、自身が設立したKawaii Quu Recordsよりリリース。
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東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、同大学音楽学部作曲科、同大学院音楽研究科作曲専攻を修了。その後渡欧し、文化庁新進芸術家海外研修制度の2年研修員としてイタリアのミラノ音楽院、キジアーナ音楽院にて研鑽を積む。 主な受賞歴に、東京藝術大学学内における安宅賞、第34回現音新人作曲賞入選・聴衆賞、第86回日本音楽コンクール作曲部門第1位および三善賞・明治安田賞、第28回芥川作曲賞ノミネート、ミラノ音楽院賞(第2位)、ルチアーノ・ベリオ国際作曲コンクール(イタリア)ファイナリストなどがある。 作品は国内外の音楽祭で取り上げられており、これまでにMdi ensemble、CONTAINER ENSEMBLE、Eutopia Ensemble、Quartetto Prometeo、Ensemble Nomad、Ensemble Contemporary α、東京交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、東京シンフォニエッタ、Jean-Guihen Queyrasなど、多様な団体・演奏家により演奏されている。 これまでに作曲を室谷章、吉本隆行、西岡龍彦、川井學、小鍛冶邦隆、Gabriele Manca、Salvatore Sciarrino、Riccardo Piacentiniの各氏に師事。現在、東京音楽大学専任講師、洗足学園音楽大学、愛知県立芸術大学、各非常勤講師を務める。 Ensemble Toneseek 代表。Cabinet of Curiosities メンバー。
@TAKUMI JUN
1997年生まれ、和歌山県出身。東京藝術大学大学院修士課程作曲専攻修了。これまでに作曲を森川隆之、鈴木純明の各氏に師事。
第30回 芥川也寸志サントリー作曲賞にて《Not Found for Orchestra》が最終候補となり聴衆賞を受賞、第89回日本音楽コンクール作曲部門第2位(オーケストラ)を受賞。さらに《十七絃箏と室内オーケストラのための「ナースログ」》で東京藝大 Art Fes グランプリ(大学長賞)を受賞するなど、管弦楽作品と邦楽器作品の双方で評価を重ねている。和歌山県橋本市文化奨励賞(2021)、和歌山県文化奨励賞(2022)、大桑文化奨励賞(2024)を受賞。
いずみシンフォニエッタ大阪より委嘱を受けるほか、東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)により吹奏楽作品《Sparkling for WindOrchestra》が演奏される。自治体事業としては、和歌山県橋本市「市制20周年記念式典」に作曲・編曲で参加。国際的にも活動の射程を広げ、Momenta Festival X(ニューヨーク)で作品が紹介されたほか、2025年ニューヨークで開催されたMusic From Japan Festivalでは招待作曲家として特集され、室内楽作品《TOKYO Overflow》の世界初演を含む複数作品が取り上げられた。邦楽器領域では、ANAグループ AirJapan のBoarding Musicに作品が採用され、NHK「にっぽんの芸能」にて箏合奏曲《脆性ノスタルジア》が演奏されるなど、邦楽器の自然な音色を活かした現代的サウンドデザインも注目を集めている。箏作品のレパートリーに《脆性ノスタルジア》《桜フラグメンツ》《夕立の祝祭》など。また、尺八奏者・藤原道山の委嘱により、藝大フィルハーモニア管弦楽団および指揮・山田和樹による尺八協奏曲《風は花となる》を発表し、2026年3月7日放送予定のテレビ朝日「題名のない音楽会」で紹介される。
鮮やかな音の色合いと、きめ細かく透明感のある響き、邦楽器の自然な音色を生かした音づくりを軸に、聴き手に情景が立ち上がるような時間を描く。楽譜はブレーンより《脆性ノスタルジア(吹奏楽版)》《飛翔/追想(フルート四重奏)》が出版されている。現在、昭和音楽大学・同短期大学非常勤講師。2026年4月、名古屋フィルハーモニー交響楽団 第5代コンポーザー・イン・レジデンスに就任。
@Ayane Shindo
作曲家、パフォーマー。『ダンシング・クィア』で第33回芥川也寸志サントリー作曲賞受賞。その他主な受賞歴に、第8回クロアチア国際作曲コンクール NEW NOTE 優勝、メンデルスゾーン全ドイツ音楽大学コンクール独連邦大統領賞、第86回日本音楽コンクール作曲部門第2位および岩谷賞、安宅賞など。主な代表作に『クィーン』 (サントリー芸術財団委嘱)、オペラ『The Mirror of NOMORI』 (墺アルヒェ劇場初演)など。東京藝術大学音楽学部作曲科を首席卒業後、独マンハイム音楽大学を最優秀の成績で卒業。アントンブルックナー私立大学博士課程を経て、現在、東京藝術大学美術研究科博士後期課程在籍中。アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC) NYフェロー2025。