Cabinet of Curiocities──世代もジャンルも越えて、多様な人がつながるハブとして(インタビュアー:加藤綾子)
──Cabinet of Curiocities(以下:キャビキュリ)は、リサーチ型キュレーションを行うコレクティブを掲げています。作曲家によるコレクティブというと、自分の作品を演奏するために公演を企画するイメージがありますが、そうではないのですね。
渡辺:キャビキュリでは、おもに国内外の作曲家や作品を紹介しています。今回はメンバーの作品を2曲、演奏しますが……資本主義的な仕組みでは、どうしても「売れる」作曲家や作品ばかりが演奏されてしまいます。キャビキュリでは、そういった仕組みからこぼれて、発見されないままになってしまう作曲家や作品が輝ける場を作ろうとしています。一つの公演をつくるにあたって、100曲ぐらい候補を出して、そこから編成や予算と相談しながら決めていきます。
──さらっと「100曲」とおっしゃいましたが、すごい数字ですね。
渡辺 :こういうリサーチが好きで、普段から音楽を聴くので、その延長です。すぐに実演できなかったとしても、常日頃からリサーチしてリストを作っています。国内外のデータベースはもちろん、ヨーロッパのアンサンブルや演奏家のレパートリー、フェスティバルの演目も調べます。気になる作品の動画や楽譜を見つけられなくても、その作曲家のほかの曲、あるいは近しい人などチェックしたり、本人に楽譜を見せてもらえないか交渉しています。これがけっこう楽しくて、最近は、連絡した相手がわたしのことを知ってくれている、なんてケースもあって、リサーチだけではなく、自分自身のコネクションにもつながっていますね。
──渡辺さんはもともと、大学時代からさまざまな公演の企画をされていましたね。それが現在のキャビキュリともつながっているのでしょうか?
渡辺 :企画については、実は利己的な動機で続けています(笑) 世代を問わず、まわりの人が面白ければ、自分も面白いことができる。理解してくれる人がいなかったら、わたしも活動していけませんから。
──これまでのお話を聞いていると、キャビキュリはコレクティブというより、劇場や公共施設のような機能を持つ「場」のように感じます。今回は音楽と舞台芸術の境界を探るということで、「ミュージック・シアター」をテーマに選ばれていますね。
渡辺 :ミュージック・シアターは定義がはっきりしておらず、作曲家によっても異なります。レクチャーパフォーマンスや、楽器以外のものを使ったり、俳優が演奏したり……そういう、音楽の枠組みを大きく捉えた、演劇や身体表現と隣接しているような表現が、ミュージック・シアターだと考えています。そのなかで、小林夏衣さんや彼女が指導を受けていたマノス・ツァンガリス、マノスと同世代のドイツ人作曲家、カローラ・バウクホルトが作ってきたシーンは、エクスペリメンタルな側面が強くて興味深いです。
──今回演奏する作品も、たくさんの出演者たちが、必ずしも専門の楽器を弾くとは限らない。
渡辺 :そうですね。たとえばキャシー・ファン・エックの『ワーズ、ワーズ、ワーズ』は、5人の打楽器奏者が顔にスピーカーをつけて、言葉を使わない言語的表現でパフォーマンスをします。一方、私の『柔らかい月』はオペラという古典的な枠組みの作品です。こちらは、グラーツ音楽大学に在学中、大学とオペラ座が共催したプロジェクトに参加したときのものです。グラーツで師事したべアート・フラー先生は、オペラをたくさん書く人でしたし、欧州ではミュージック・シアターも身近でした。
──留学中から、オペラを含む舞台芸術的な表現に関心があったんですね。
渡辺:実は、オペラを書きたいという思いは留学前からあって、2008年には能声楽家・青木涼子さんのカンパニー「company izuru」と『能オペラ』を作ったことがあります。その当時から、どちらかというと現代音楽より舞台芸術的な表現に興味を持っていました。また日本人が、西洋の枠組みであるオペラに向き合うという命題にもずっと関心を持っています。
──『柔らかい月』のリハーサルはどんな様子ですか?
渡辺 :指揮の馬場武蔵さんと演出の布施砂丘彦さんが関わってくれているので、とてもやりやすいです。 馬場さんも、布施さんも音楽だけでなく、オペラや演劇的表現にかかわりがあります。特に布施さんは、自身も演奏家でありながらオペラを演出できる、貴重な若手です。布施さんには、『柔らかい月』を材料に新しい表現にチャレンジしてほしいですね。
──なるほど。では、演出面は布施さんにかなり任せているのでしょうか?
渡辺 :コンセプトや初演時の話はしていますが、基本的にあまり介入していません。演出も楽曲解釈の一部として、楽しみにしています。初演時は、演出アイデアもありましたが、今回再演ということもあって、演出にはあまり自分の意志を入れずに新しい演出を見てみたいと思っています。いちど聴いた音楽でも全く違うようにきこえる、そういうサプライズが欲しい。
──最後に、今回の公演のみどころを教えてください。
渡辺 :わたしと森くん、小林さん、そしてキャシーの作品は、「ミュージック・シアター」のなかでも、それぞれまったく違うポジションをとっています。シナリオやテキストのあるものから、映像やプロジェクターを使ったもの、パフォーマンス、観客参加型……多様なミュージック・シアター要素が詰まっています。全部の演目を見たとき、このカテゴリーの魅力がきっと伝わるはずです。
──「ミュージック・シアター入門編」ともいえる公演になりそうですね。
「場」としてのキャビキュリも、今後の発展にぜひ期待したいです。
渡辺:上の世代と下の世代、それから領域の異なる人同士がつながる、ハブになっていきたいです。2025年から始まった「キャビキュリアカデミー」は今後も継続していくつもりですし、若い人たちに、安全に実験できる場所として使ってもらえたらうれしいです。
──ありがとうございました!
(インタビュアー:加藤綾子 | 2026年1月13日収録)